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東京高等裁判所 昭和25年(う)2432号 判決 1950年9月25日

被告人

渡辺炫一

主文

本件控訴は之を棄却する。

当審における未決勾留日数中五十日を本刑に算入する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人若林清の控訴趣意第二に対する判断

(イ)  しかし原審第一囘公判調書によると「検察官は証拠として被告人の供述調書二通、前科調書の取調を請求し立証趣旨を述べた。裁判官は被告人及び弁護人に対し右書面を証拠とすることに同意するかどうかきいたところ被告人及び弁護人は同意すると述べた。裁判官は右書面を証拠として取調べる旨の決定を宣した」との記載があるのである。苟くも検察官の取調を請求した書面を証拠とすることに同意している以上、同時に之が証拠調をすること自体についても異議ない旨を表明しているもの即ち意見を述べたものと解すべきは当然であるから所論の指摘するように裁判官が検察官の証拠調の請求に対し被告人又はその弁護人の意見を聴かないで証拠調の決定をしたというような訴訟手続上の違法はない。

(ロ)  所論は検察官の刑事訴訟法第二百九十六条所定の冒頭陳述がなされていない点を挙げて右は訴訟手続に法令の違反があると主張するのであるが、我が刑事訴訟法の下にあつては同条所定の冒頭陳述は訴訟の状況に応じ適宜或に既に朗読した公訴事実を引用し又はその冒頭陳述に代えて個々の立証趣旨を陳述するを以て足りると解すべきである。而して原審公判調書によれば検察官の取調べを請求した個々の証拠については右公訴事実を引用しその立証趣旨を陳述しているのであるから之を以て訴訟手続に法令違反があると謂えないばかりでなく何等判決に影響を及ぼさないことも明らかである。所論はいずれも採用できない。

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